暫く騒がれているナフサショック。この話題に連動して非常に興味深いニュースを目にしました。
大手菓子メーカーのカルビーが、中東情勢に伴う資材不足を受け、主力である「ポテトチップス」など14商品のパッケージを、インクの色数を抑えた「2色刷り(事実上のモノクロ化)」に順次切り替えるという発表です。
一見すると、これは食品業界における一時的なコスト対策や、供給ラインの防衛策に見えるかもしれません。しかし私は、この出来事がこれからの「ものづくり」や、私たちの美意識が向かう“時代の空気”を象徴しているように思えてならないのです。
この「色を削ぐ」という流れは、やがて私たちのオーダースーツや革製品の世界にも深く広がっていくのではないかと思います。
不景気の時代は装飾が減るという歴史
歴史を振り返ると、経済が停滞し、先行きが見えなくなる時代には、必ずデザインの「簡素化(ミニマリズム)」が起こっています。 世界恐慌の後、戦後の復興期、そしてリーマンショックの後――。
社会が揺らぐとき、人々は刹那的で派手な装飾よりも、次のような価値を本能的に求めるようになります。
- 長く使えること
- 落ち着いていること
- 品があること
- 安心感があること
近年のファッション界で注目されている「Quiet Luxury(クワイエット・ラグジュアリー=静かな高級感)」(個人的には、こんな単語は後から作られた言葉で嫌いですが)も、まさにこの流れの延長線上にあると言えます。 大きなロゴや一目でそれと分かる派手なデザインよりも、匿名性が高く、しかし確かな輪郭を持つもの。
- 良い素材
- 美しいシルエット
- 丁寧な縫製
- 静かな存在感
これらに価値を見出す文化は、実は古くから日本人が得意としてきた「引き算の美学」とも深く共鳴しているのではないかと思うのです。
色を減らすと本質が見えてしまう
ファッションにおいて面白いのは、色や装飾を削ぎ落とすほど、ごまかしが効かなくなるという点です。
例えば「黒」という色。 一見すると最も単純で、誰にでも扱えそうな色ですが、実際は表現するのが非常に難しい色でもあります。安価な黒は光を吸収せず平坦に見えてしまいますが、上質な素材による「良い黒」は、光の当たり方によって奥行きや深みが変わります。
黒のスーツでも、ゼニアのトロフェオなのか?そこらの平織りの黒なのか?全然違いますよね!?
色という強い個性を引き算したとき、初めてそのプロダクトの「構造そのもの」が前に出てきます。
紳士靴であれば、
- 木型(ラスト)の美しさ
- コバの仕上げ
- 革そのものの質感
- ステッチの細かさと正確さ
- 全体のバランス
仕立ての良いスーツであれば、
- 肩の収まりの良さ
- 生地が描くドレープ
- 毛芯の据え方
- ラペル(襟)の美しい返り
装飾という言い訳を奪われたとき、そこには職人の技術という本質だけが残ります。
ブランドの本質が見える時代へ
カルビーがポテトチップスの「顔」とも言えるカラーパッケージを捨ててでも、中身という本質を届け続ける選択をしたように、これからのものづくりもまた、本当の価値を問われる時代に入っていくのかもしれません。
あえて色を減らし、飾ることをやめる。 それは一見すると制限であり、寂しいことのように思えますが、裏を返せば、私たちが「ものの本当の良さ」を見極めるための、素晴らしい機会であるとも言えます。
溢れる色彩の中で消費を繰り返す時代から、削ぎ落とされた一色のなかに宿る「本質」を愛でる時代へ。 “色を削ぐ時代”の足音は、私たちのすぐ近くまで聞こえてきている気がします。
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