本記事は、日頃よりPiccolo Kyotoとお取引のあるテーラー様や、
靴のフィッティング技術をより深めたいプロフェッショナルな皆様に向けて、
「足元の人間工学」の基礎知識をシェアするための研鑽ノートです。
美しいスーツや衣服を仕立てる上で、実は土台となる「お客様の立ち姿・歩き姿」は非常に重要です。
今回は、フィッティングの現場で最も混乱しやすい足の3次元運動、
「回内(プロネーション)」と「回外(サピネーション)」のメカニズムを、
臨床現場や靴人間工学の最新基準に基づいてわかりやすく解説します。
仕立てのプロの皆様はもちろん、
「自分に本当に合う靴や、美しい歩き方を知りたい」という一般のお客様も、
ぜひ知的好奇心を満たす読み物としてお役立てください。
身体の3面と足部の3次元運動(回内・回外)」について整理します。
①「3つの面とそれぞれの単純運動」、②「3次元の複合運動(回内・回外)の組み合わせ」、③「手を使った実践的な覚え方」、④「2021年の歴史的な用語統一の背景」の4つです。
1. 身体を定義する3つの面と足部の「単純運動」
足の複雑な動きを理解するために、まずは身体を定義する3つの基準面と、それぞれの面の上で静かに起きる(面を壊さない)単純な運動を整理します。
- ① 矢状面(しじょうめん)
- 定義:身体を「左右」に分ける面です。
- この面における運動:「底屈(ていくつ)」「背屈(はいくつ)」。
- ポイント:この底屈・背屈運動は、基本的には距腿関節(足関節)のみで行われます。
- ② 水平面(すいへいめん)
- 定義:身体を「上下」に分ける面です。
- この面における運動:「内転(ないてん)」「外転(がいてん)」。
- 動きのイメージ:この面を壊さないように、内側や外側にコロコロと転がる動きです。
- ③ 前額面(ぜんがくめん)/ 全面
- 定義:身体を「前後」に分ける面です。
- この面における運動:「内反(ないはん)」「外反(がいはん)」。
- 動きのイメージ:足の裏が内側を向くようにそっくり返るのが「内反」、外側を向くのが「外反」です。
2. 3次元の複合運動:回内(プロネーション)と回外(サピネーション)
日常の歩行時、足部は単一の面だけでなく、3つの面が連動してねじれる「3次元の複合運動」を行います。これが「回内(プロネーション)」と「回外(サピネーション)」です。
- 回内(プロネーション)=【 背屈 + 外転 + 外反 】
- 足の状態:土踏まず(縦アーチ)がペタッと潰れる動きです。
- 回外(サピネーション)=【 底屈 + 内転 + 内反 】
- 足の状態:土踏まず(縦アーチ)がギュッと持ち上がる動きです。
4. 2021年の歴史的合意
- 長年の混乱: 理学療法士(PT)などでは、前額面の「内反・外反」と、3次元運動の「回内・回外(内返し・外返し)」の定義が混同され、逆の言葉で教えられてきた歴史があり、医療現場で大きな混乱を生んでいました。
- 2021年の合意: 日本リハビリテーション医学会、日本整形外科学会、日本手の外科学会の3つのドクター学会が、1995年からなんと26年間もの協議を重ねた末、2021年に国際標準である「回内・回外」に統一することでついに合意しました。
5. 正常と異常(オーバープロネーション・サピネーション)
最後に、人間工学における「何が問題か」の評価基準を整理します。
- 回内・回外自体は悪ではない: 歩行周期の中で、足が地面を捉えて衝撃を吸収したり、蹴り出したりするために、回内・回外が起きること自体は完全に正常かつ必要なダイナミック運動です。
- 何が問題なのか?: 問題なのは、その動きの度合いが行き過ぎる「オーバープロネーション(過回内)」や「オーバーサピネーション(過回外)」です。 また、動いていない状態(静止立位)の時点で、すでに踵が内側や外側に倒れて回内・回外を起こしている場合はアブノーマル(異常)と判断され、足や膝のトラブル(痛み)を引き起こす原因になります。
