流行色は「誰が、いつ」決めている?
「今年は○○色が流行る」
ファッションの世界では、毎年のようにそんな言葉を耳にします。
では、その色はいったい誰が、いつ決めているのでしょうか。
実は、流行色は一人のデザイナーや、ひとつのブランドが突然決めているものではありません。
世界的な色の動向を検討する組織があり、各国の市場や生活者の動向を踏まえた提案があり、それらが素材や服地の展示会、コレクションなどを通じて具体的な商品へとつながっていきます。
そして、その流れは私たちが店頭で「今年はこの色が多いな」と気づく、ずっと前から始まっています。
私自身、それを強く意識するようになったきっかけが、2019年に訪れたパリでした。
2019年2月12日。

私はパリで開催されていた、Première Vision Paris(プルミエール・ヴィジョン)を訪れていました。
写真を見返すと、撮影日時まで残っています。
会場のラウンジには、鮮やかな赤い壁。
そして、来場者用の赤いストラップが山のように積まれていました。
壁には大きく「20」の文字。
当時の私は、そこまで深く考えていませんでした。
しかし後から写真を見返すと、この「20」は2020年春夏シーズンを示していたことが分かります。
実際、2019年2月のPremière Vision Parisは、2020年春夏シーズンの素材を扱う展示会でした。
つまり、私がパリで見ていたのは、
「これから始まる2020年春夏の世界」
だったわけです。
そして、もう一つ気になったのが、会場を強く印象づけていた「赤」でした。
では、その色は誰が決めているのか?
ここからが、今回あらためて調べてみたかったところです。
流行色の大きな流れをつくる存在の一つが、インターカラー(国際流行色委員会)です。
JAFCAによれば、インターカラーでは実シーズンの約2年前からグローバルなカラートレンドが検討されます。
そして日本では、その情報をもとにJAFCA(一般社団法人日本流行色協会)が、国内の生活者の志向やマーケット動向なども踏まえて、日本の産業向けのカラートレンドを選定しています。
ここが、私自身も以前は少し勘違いしていたところでした。
単純に、
インターカラーが決める
↓
JAFCAが決める
↓
展示会で発表される
という一本線ではありません。
さまざまな情報や予測、社会の動き、市場の変化が重なりながら、少しずつ「色の方向」が形になっていく。
そして、その色が素材や服地として具体的な姿を見せる場所の一つが、Première Visionのような国際的な展示会です。
「流行色」は、実際のシーズンよりずっと前に動き始める
JAFCAは、カラートレンド情報の検討が実シーズンの2年前から始まると説明しています。
また、JAFCAのファッションカラーは実シーズンの約1年半前に速報が発表され、その後、素材やイメージなどを含めたカラー情報へと具体化されていきます。
考えてみれば、これは当然のことなのかもしれません。
洋服は、
色を考える
↓
素材をつくる
↓
生地を展示する
↓
デザインする
↓
生産する
↓
店頭に並ぶ
という長い時間を必要とします。
「今年の春はこの色が流行ります」と言われてから、生地をつくり、洋服をつくっていたのでは間に合いません。
だからこそ、流行色は私たちが見るよりはるか前から動いている。
2019年2月のパリで私が見ていた「20」という数字も、まさにその時間差を象徴していたのだと思います。

あの赤い壁を、今になって見返してみる
ここで、もう一度あの写真を見てみます。
2019年2月。
赤い壁。
赤いストラップ。
そして「20」。
当時の私は、ただ「きれいな赤だな」と見ていたのかもしれません。
しかし今見ると、少し違って見えてきます。
色は、突然そこに現れるわけではない。
その何年も前から、社会の変化や生活者の感覚、デザイン、素材、マーケットなど、さまざまな要素が積み重なっている。
そして、それらが展示会という場所で、私たちにも見える「色」になって現れてくる。
Première Vision自身も、現在ではシーズンごとのカラーレンジや素材、デザインなどをまとめ、次のコレクション開発につなげる情報として発信しています。
そう考えると、展示会で見る一枚の生地も、少し違って見えてきます。
そして、その翌年に世界が変わった
ところが、その「2020年春夏」が店頭に並ぶ頃。
世界は大きく変わりました。
新型コロナウイルスの感染拡大です。
人が街から消え、店が閉まり、外出する機会そのものが減りました。
それまで当たり前だった、
「春になったら新しい服を着て出かける」
という行為さえ、当たり前ではなくなった。
色の方向性が何年も前から検討され、素材も服も準備されていたとしても、その色を受け取る社会の状況までは、誰にも決められません。
その翌年、2021年のPantone「Color of the Year」に選ばれたのは、Ultimate GrayとIlluminatingというグレーとイエローの組み合わせでした。
Pantoneはこの2色に「強さ」と「希望」というメッセージを込めています。
もちろん、これは「コロナがあったからこの2色になった」と単純に言える話ではありません。
ただ、色は社会と無関係に存在しているわけではない。
そこには、その時代の空気や人々の感情が少なからず映り込んでいるのだと思います。





「不景気だからグレーが流行る」は本当なのか?
よく、
「景気が悪くなると黒やグレーが流行る」
「景気が良くなると明るい色が増える」
などと言われます。
ファッションを語るうえでは、非常によく聞く話です。
ただ、これを単純な法則として捉えるのは少し危険だと思っています。
色の流行には、経済だけではなく、社会情勢、文化、技術、素材、デザイン、生活様式など、さまざまな要素が関係しています。
だから私は、
「不景気だからグレーを着る」
と考えるより、
「なぜ今、この色を心地よく感じる人が増えているのだろう」
と考えるほうが、服を提案する立場としては面白いと思っています。
色を「当てる」のではなく、色の背景を見る
服を仕事にしていると、お客様から、
「今年は何色が流行っていますか?」
と尋ねられることがあります。
もちろん、流行色を知っておくことは大切です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
例えば、同じネイビーでも、
「流行っているからネイビー」
という選び方と、
「今の自分には、この落ち着いたネイビーがしっくりくる」
という選び方では、意味がまったく違います。
服は、色見本の上だけで完結するものではありません。
その人の年齢、仕事、肌、髪、体型、ライフスタイル、そして「今、どう見られたいのか」。
そこまで含めて、初めて色の提案になります。
2019年の赤い壁から、今の仕事を考える
写真に残っていたのは、たった一枚の赤い壁です。
でも、その写真をきっかけに調べてみると、そこには「流行色が生まれてから、私たちの目の前に届くまでの長い時間」がありました。
2019年にパリで見た「20」。
その数字を当時は、ただ展示会のシーズン表示として見ていました。
今なら、少し違う見方をします。
色は、未来からやってくる。
そして、実際にその未来が来たとき、社会は予測どおりには動かない。
だからこそ、服を扱う仕事では、単に「今年の流行色」を覚えるだけではなく、
「なぜ、この色なのか」
「なぜ、この時代にこの色が選ばれるのか」
「そして、このお客様はなぜ今この色を選びたいのか」
まで考えてみたい。
2019年、パリのPremière Visionで撮った一枚の写真。
今になって見返すと、あの赤い壁は、単なる展示会の風景ではなく、色とファッションの時間の流れを教えてくれる一枚だったように思います。

