色の見え方を考える
きっかけは、「まぶしさ」
副鼻腔炎の手術を受けてから、以前よりも光をまぶしく感じるようになりました。
手術の影響なのか、それとも年齢によるものなのか。
仕事中でも、特にまぶしさがつらいときは、色眼鏡をかけています。
少し気になって調べているうちに、思いがけず「色の見え方」というテーマにたどり着きました。
副鼻腔と眼は解剖学的にも近い位置にあり、副鼻腔の手術後に、一時的に眼の違和感やまぶしさなどを感じるケースもあるようです。
一方で、年齢を重ねることによっても、光や色の感じ方は少しずつ変化します。
水晶体は加齢とともに黄みを増し、白内障が進行すると、まぶしさを強く感じたり、色の鮮やかさを感じにくくなったりすることがあります。
そこで、ふと思いました。
「自分が見ている色と、目の前のお客様が見ている色は、本当に同じなのだろうか?」
これは、色を扱う仕事をしている私にとって、意外と大きな問いでした。
私たちは「同じ色」を見ているとは限らない
普段、洋服をご提案するとき、
「こちらのネイビーが似合いますね」
「このグレーの方が落ち着いて見えます」
「このブラウンなら靴との相性がいいですね」
など、色についてさまざまな言葉を使います。
ところが、色の見え方には個人差があります。
その一つが色覚特性です。
一般的に、人の眼の網膜には、赤・緑・青の光にそれぞれ異なる感度を持つL錐体・M錐体・S錐体という3種類の錐体細胞があります。
この働きによって、私たちはさまざまな色を識別しています。
しかし、その働き方には生まれつきの個人差があり、特定の色同士を区別しにくい人もいます。
日本人男性では、先天的な色覚特性を持つ人が約5%いるとされます。
つまり、決して珍しいことではありません。
「赤が見えない」という単純な話ではない
色覚特性について、「赤が見えない」「緑が見えない」というイメージを持っている方もいるかもしれません。
実際には、そう単純なものではありません。
代表的なものとして、
1型(P型) 赤系の色の識別に特徴があり、赤そのものが暗く、黒っぽく見えるのが特徴です。赤と緑だけでなく、桃色(ピンク)と水色、桃色と灰色の区別もつきにくくなります。
2型(D型) 赤と緑など、特定の色の組み合わせを区別しにくい場合があります。赤に加えて緑も茶色っぽく見えるため、1型より混同する範囲が広がる傾向があり、緑と茶色・灰色の見分けもつきにくくなります。
3型(T型) 青系と緑系などの識別が難しくなる場合があります。青と緑、黄色と青紫などの組み合わせが特に見分けにくいとされています。
などがあり、それぞれ色の識別の仕方に特徴があります。
1型・2型では、赤と緑をはじめ、赤と黒、茶色と緑など、特定の色の組み合わせを区別しにくい場合があります。
一方、3型は非常に稀で、青系と緑系などの識別が難しくなる場合があります。
ただし、ここで大切なのは、
「このタイプの人は必ずこの色に見える」と一律に決めつけることはできない
ということです。
色の濃さや明るさ、周囲の色、照明などによっても見え方は変わります。
実際にシミュレーションしてみました

そこで、手元にあった新作のゼニアジャパンのコーディネートブックより、比較的太めの縦畝 コットンとカシミア混生地を使って、色覚特性のシミュレーション画像を作ってみました。

用意したのは、緑・青・赤の3色。
通常の色覚をC、1型をP、2型をD、3型をTとして、それぞれの見え方を比較しました。
シミュレーションでは1型をProtanopia(プロタノピア)/ 2型をDeuteranopia(デューテラノピア)/ 3型をTritanopia(トリタノピア)と表記します。
これらの単語は、古代ギリシャ語のパーツが3つ組み合わさってできています。
- 接頭辞(数字):Proto-(第1の) / Deutero-(第2の) / Trito-(第3の)
- an-:〜がない(欠如)
- -opia:視覚、目の状態

通常の色覚では、
緑・青・赤
と、それぞれの色の違いが比較的はっきりしています。
ところが、1型・2型のシミュレーションでは、緑と赤の見分けがつきにくくなり、茶系の色に近い印象に見えることがあります。
3型では、緑がグレーに近づき、青が緑やティールに近い印象に見えることがあります。
もちろん、これはあくまでシミュレーションです。
実際の見え方を完全に再現するものではありません。
それでも、画面を並べて見比べてみると、
「同じ生地を見ても、これだけ印象が変わるのか」
と、少し驚かされました。
もう一つ、忘れてはいけない「加齢による見え方の変化」
色覚特性というと、生まれつきのものを思い浮かべがちです。
しかし、私が今回調べていて特に興味深かったのが、加齢による色の見え方の変化でした。
年齢を重ねると、水晶体は少しずつ黄みを増していきます。
また、白内障も年齢とともに増えていきます。
白内障が進行すると、
- 以前よりまぶしく感じる
- 色がくすんで見える
- 色の鮮やかさを感じにくくなる
といった変化が起こることがあります。
つまり、
「色覚特性を持っている人だけが、色の見え方に違いがある」のではありません。
年齢を重ねることで、色や光の見え方に変化を感じる人もいます。
これは、私自身が今回「まぶしさ」をきっかけに色について調べたからこそ、改めて意識するようになったことでした。
これは、私たちの仕事にも関係している
私は、スーツやジャケット、シャツ、ネクタイ、靴、革小物など、色そのものが商品の印象や価値に大きく関わるものを扱っています。
特にオーダーでは、お客様と一緒に生地や革を見ながら、
「こちらの色が似合う」
「この組み合わせの方が品がある」
「靴はこのブラウンにすると全体がまとまる」
といった提案をします。
しかし、今回のことを調べてみて思ったのは、
色の提案とは、こちらが色を判断するだけでは完成しない
ということです。
私には深いネイビーに見えていても、お客様には少し違った印象に見えているかもしれない。
私には鮮やかなグリーンに見えていても、お客様には別の色として認識されているかもしれない。
そして、それは必ずしも「色覚特性があるかどうか」だけの問題ではありません。
年齢、照明、素材、光沢、周囲の色など、さまざまな条件によっても、色の見え方は変わります。
「似合う色」を伝えるだけではなく
洋服の販売では、どうしても
「こちらの色が似合います」
という、販売者側からの判断になりがちです。
もちろん、それも大切です。
ただ、これからは、
「この色を、お客様自身はどう感じているのか」
という視点も、もっと大切にしていきたいと思っています。
例えば、生地を自然光で見てみる。
店内の照明だけではなく、少し場所を変えて確認してみる。
近くの色と比較してみる。
そして何より、お客様ご自身に色を見ていただき、感じた印象を聞いてみる。
そうした小さな確認の積み重ねが、より良い色の提案につながるのではないかと思います。
